「マクロビオティックの功罪」

前回に続き、日本人の食に焦点を当てていきましょう。

今回は、特にマクロビオティックについて掘り下げていきたいと思います。

 

マクロビオティックの基本理念は3つでした。

・一物全体(自然の恵を残さず丸ごといただくこと)

・身土不二(暮らす土地の旬のものを食べること)

・陰陽調和(食材、調理法を陰陽に分け、そのバランスをとること)

 

要約すると、

穀物なら精製していない玄米、野菜・果物なら皮を剥かずに丸ごと、土地や季節の旬のもの、陰陽のバランスが取れた食材や調理方法を選んで食べましょう

というものです。

このような食事法を「玄米菜食」と呼ぶこともあります。

 

◆一物全体について ~ホールフード~

では、なぜ精製していないものや皮を剥かずに丸ごと食べるのが良いのでしょうか?

例えば、玄米は白米よりもカルシウムやマグネシウム、ビタミンB1、鉄、食物繊維など栄養が豊富に含まれていることが知られています。

また、りんごは皮を剥くと時間が経てば色が変わってきますね。

これは、りんごの皮にポリフェノールの一種であるプロシアニジンという強い抗酸化作用をもつ栄養成分(ファイトケミカル)が含まれているからです。

りんごを皮ごと食べればこのような抗酸化物質も取り入れることができます。

一物全体とは、マクガバンレポートでいうところの“ホールフード”と同じ考え方です。

 

◆身土不二について ~風土に合ったフード~

続いて、その土地や季節の旬のものを取り入れると良いのはなぜでしょうか?

例えば、熱帯地域でとれるバナナには体内の熱を下げる働きがあると言われています。

バナナ はカリウムを豊富に含んでおり、カリウムの血管弛緩作用によって血流を促して体の外へ熱を出す効果があるからです。

一方、主に冬に取れる根菜類は身体を温めてくれる効果があると言われています。

根菜類には、亜鉛、マグネシウム、鉄、セレンなどの豊富なミネラル群が含まれていて代謝を上げて体温を維持してくれる働きがあるからです。

身土不二とは難しい言葉ですが、言い換えれば

「地産地消」で“風土に合ったフード”を季節ごとに旬な時期に食べましょうという考え方です。

旬のものは、たくさんできるので安く買えるという経済的メリットもあります。

 

◆陰陽調和について ~陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)~

最後に陰陽のバランスをとることの重要性です。

ところで陰陽とは何でしょうか?

例えば、私たちの住む地球には、昼(陽)と夜(陰)があります。

昼と夜を作り出している太陽(陽)があれば、太陽が出ているときには見えないことが多いけれども確かに存在している月(陰)があります。

このように何事にも陰陽があり、人間にも植物にも陰と陽があるということです。

マクロビオティックではこの

陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)を大切にしていて、どちらかに偏ることは良くない

としています。

 

このような考え方に照らし合わせれば、根菜類が身体を温めてくれ(陽性)、熱帯でとれる果物や夏野菜が身体を冷やしてくれる(陰性)という風に考えることができます。

また、陰性の食べ物であっても、煮て食べる(加熱する)ことで身体を冷やさないようにしたり、塩分(塩は極陽性)を加えることでバランスをとったり、調理方法によってもバランスを整えることができると言います。

食材の陰陽バランス表がマクロビオティックのサイトに載っていますのでご参考になさって下さい。

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★日本CI協会 陰陽表~食物の陰陽表(ホームページ用簡易版)より

 

以上のように、マクロビオティックには日本の伝統的な食事法でありながら、現代の私たちには目からウロコのような知見に溢れています。

このようなことから健康ブームの昨今では注目を集めたり、代替療法として医療分野でも活用されたりしているわけです。

しかしながら、マクロビオティックにも様々な流派があり、このような概念の解釈の仕方によってはむしろ健康に良くないこともあるそうです。

そこで、後半ではマクロビオティックを取り入れる際に注意するべき点を挙げていきたいと思います。

 

◆残留農薬の問題

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マクロビオティックの基本原理であった一物全体を実践しようとするとまず注意が必要なのは残留農薬の問題です。

日本の農作物の大半(耕作面積で99.9%)が農薬・化学肥料使用によるものであるため、その表面や皮などに残留農薬が含まれてしまっています。

そのため、そのまま丸ごと食べてしまうと化学物質である農薬まで身体に取り入れることになってしまい、かえって健康に良くないこともありうるわけです。

そのため、

無農薬無化学肥料のお米、野菜、果物を取り入れるか、表面を中性洗剤や市販されている天然素材の農薬除去剤を使用するなど、対策をとること

をおススメします。

 

◆玄米食の落とし穴

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次に玄米食についてです。

玄米に栄養が多く含まれていることは先に述べた通りですが、問題はそれが食べた後、体内に栄養として取り入れられるかということです。

玄米には、「フィチン」というフィチン酸と金属イオン(主にミネラル)が結合した状態のフィチンという物質が含まれています。

玄米はお米の種ですから、発芽するときに必要な栄養を自分で蓄えているわけですね。

そのため、玄米をそのまま炊いてしまうとフィチンが抱えているミネラルを吸収することができないわけです。

むしろ、フィチン酸として存在しているものがあれば一緒に取り入れたミネラルも吸収してしまうため、体内が栄養不足に陥る可能性もあるかもしれません。

また、フィチン酸よりも懸念されるのが種に含まれるアブシジン酸(ABA)とよばれる成分です。

ABAは植物ホルモンの一種で、植物の発芽を調節しています。

このABAは、私達の細胞内のミトコンドリアに対して毒性を持っています。ミトコンドリアは私たちのエネルギー生産工場ですから、代謝が悪くなったり、酵素の働きが悪くなったりすることが懸念されます。

 

では、玄米をどのようにして食べればよいのでしょうか。

キーワードは「発芽」です。

発芽によって、ABAが無毒化されるだけでなく、玄米に含まれるさまざまな栄養成分が増えたり、栄養素の体内吸収率が高まったり、新しく有効な成分が発生すると言われています。

特に、γアミノ酪酸(ギャバ)は、白米や玄米の数倍になるそうです。ギャバは、神経伝達物質として作用するアミノ酸の一種ですが、血圧や精神を安定させる効果があると言われています。

どのように玄米を発芽状態に近づければ良いかというと「玄米を炊く際には水に長時間漬ける」です。

これにより、フィチン酸の影響を軽減し、ABAを不活性化できます。

玄米を水に漬けることで発芽状態に近づき(フィチンがフィチン酸とミネラルに分離)、栄養を取り入れやすくすることができるということです。

 

玄米を炊くのが面倒という方は、市販の発芽玄米を白米に混ぜて食べるというのも良いでしょう。

いずれにしても玄米には注意が必要なため、毎日毎食食べるというのは現実的ではないかもしれません。

ただし、フィチン酸の作用は必ずしも悪いことばかりではありません。

玄米の排毒作用(例えば、体内に溜まった重金属を排出するなど)によって不調の方が良くなることも多いそうです。

しかしながら、改善してからも玄米食を厳格に続けるというのはおススメできないというだけの話です。

 

◆火食は過食に通ず

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最後に「火食」についてです。

「火食は過食に通ず」とは、医学の祖ヒポクラテスの残した言葉です。

火食とは、加熱調理して食べることですが、火食の何がいけないのでしょうか?

先に述べたように加熱することで陰性の食材を緩和したり、やわらかくして食べやすくしたり、味をしみ込ませたりと良いことも多そうです。

特に現代人は、陰性に偏りがちなため、とにかく陽性のものを取り入れた方が良いという説もあります。

 

キーワードは、「酵素」です。酵素は人間にとって最も重要な栄養素だという説(酵素栄養学)もあるくらいです。

酵素は、35~40℃(つまり体温くらい)でよく働き、70℃以上では壊れてしまいます。

つまり、煮込んだり、焼いたりといった加熱調理によってタンパク質の一種である酵素が壊れてしまうことが問題なのです。

酵素の効用については、またの機会に譲りますが、何でもかんでも陽性にと考えて加熱してしまったり、生のものは陰性だからと一切食べないと、食物酵素を体内に取り入れることができません。

そのため、

加熱した方が食べやすく、栄養も取りやすいものについては加熱し、生野菜や果物など「生食」もバランスよく取り入れること

肝要です。

何も難しいことはなくて、これすなわち陰陽調和の考え方そのままだと思います。

 

以上、二回にわたって日本人の食についての話題をご紹介してきましたが、結局私たち日本人にとって一番合う食事とはどのようなものなのでしょうか?

結論を言ってしまえば「お米を主食とした和食を中心に、肉食を控えて生食を取り入れる」ということではないでしょうか。

 

◆まとめ

・欧米の栄養学は日本人に当てはまらず、日本人には日本食が良い。

・マクロビオティックは目からウロコの知見に溢れているが実践には注意が必要。

・理想を追い求め過ぎず、お米を主食とした和食を中心に肉食を控えて生食を取り入れる。