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◆ロンドンで花ひらく『チーム戦』の過去最高の成果

メダル数11個と過去最高の結果を出したロンドン五輪のヘッドコーチ 平井伯晶さんは成功の要因を次のように言っています。

 

「今回の競泳チームの活躍は選手だけではなく、コーチやトレーナーといったスタッフ全員が一丸となった結果」

 

これは言葉だけでなく、確かに代表コーチの担当選手からそれぞれメダリストが出ていることからも明らかに結果が出ています。例えば、成績が出なかった選手を、担当以外のコーチも慰めてフォローし合うなど、全体のチームワークは抜群だったそうです。

 

ではロンドンで花ひらいたチームの成果はどのように実現したのでしょうか。

それをここから見ていきましょう!

 

 

北京オリンピック直後の2008年10月に上野ヘッドコーチから北島康介選手や、寺川綾選手のコーチとして有名な平井伯晶さんにヘッドコーチが引き継がれロンドン五輪を目指す体制になりました。

 

ロンドン五輪でも、最初に「個の力を伸ばすチーム力や組織作り」という平井ヘッドコーチが方針を立て全員が意識を共有しました。

 

 

次にこれまでは各選手に付きっきりだったコーチ陣が、自分の担当以外の選手の分析やアドバイスを積極的に行いました。それは、多角的に偏りのない視点で各選手の性格や状態を考慮して、コーチだけでなく、他の選手を担当しているトレーナーを含めたスタッフ全員が、選手のサポートを行うためでした。

 

また、付き合いが長いがゆえに気付かないようなちょっとした変化に気づくためでした。そうした変化は、第三者的な関わりのできる他選手のコーチのほうが目に留まりやすいという理由からでした。この結果、選手の体調管理やメンタルケア、さらに選手の能力を最大限に引き出す事が可能となりました。

 

最後に、五輪で勝つために、徹底的な情報共有を通してリアルな本番のシミュレーションを実施し、綿密なリスクマネジメントをした結果の過去最高のメダル獲得でした。

 

 

◆課題は金メダルの獲得

ロンドン五輪では過去最高のメダル数を獲得しました。しかし、金メダルは0個という課題点も同時に表出した大会でした。

 

これは何故でしょうか。確かに、メダルの個数が増えたのはそれだけ日本競泳陣の全体の力がレベルアップしたからですが、金メダルが獲得できなかったとう寂しい結果も同時に現れています。その要因を幾つか見ていきます。

 

1つ目は突出した個の存在です。

アテネ五輪では金メダル2つを獲得し、結果でチームを鼓舞した北島選手の存在が大きくあります。北島選手の全盛期(アテネ五輪、北京五輪)はチーム全体の大きな目標として「北島に金メダルを取らせる」という目標を持ち、指導者同士が連携して情報交換を行い、トレーナーなどのサポート体制がつくられました。また、選手や指導者間のコミュニケーションが密にとられていたので「何で北島だけなんだ」という不満ではなく、良い刺激となり「一緒のチームの自分だって頑張れる」「自分だって負けずにメダルを取る」という良い流れにつながりました。ただし、ロンドン五輪では入江選手という素晴らしい逸材がいたものの、チームを引っ張っていくだけの突出した個の存在がいるとは言えませんでした。

 

2つ目は選手の意識です。

「チームのために頑張りました」

「チームが支えてくれたので乗り切れました」

 

ロンドン五輪ではこのような発言が選手から聞こえてきました。

これはチームとして一丸となり世界に立ち向かう意識は、今の代表選手たちに浸透していることが良く分かる言葉です。

 

でもこの言葉だけで本当に良いのでしょうか。選手の意識はどのようになっているのでしょうか。

確かに自分を支えてくれる仲間の存在や、周囲のサポートへの感謝の気持ちを持つことはもちろん大切です。また、調子が上がらず、苦しんだ自分を助けてくれたのはチームの存在かもしれません。

 

しかし、仲間で“助け合う”だけでは何も生まれないのが個人競技です。先ほどの言葉は、決して間違っていないものの『チーム力』の本質からは、選手の意識が少しずつずれ始めているのではないか心配な言葉です。

 

何故なら、アテネ五輪に出場した選手たちに共通していたのは、“自分自身”が世界と戦ってメダルを取る、という強い意識や挑戦心であったように見えます。競泳はあくまでも個人競技ですから、たとえ目標を同じにする仲間であっても、自分と同じ種目の選手には強いライバル意識を持ち、日本を代表する選手であるという誇りを持ち合わせていました。そのような選手は金メダルをとると宣言し、取れないと非常に悔しがっていたことが印象的です。

このような強い“個”が同じ目標、同じ信念を持ち、同じ屋根の下に集まることで強い“集団”を作り出すこと。これこそが、競泳日本代表が掲げた『チーム力』の本質ではないでしょうか。

 

 

◆チームの本質は個の強さを引き出す組織力で勝負する!

ロンドン五輪での競泳チームの活躍は選手だけでなく、コーチやトレーナーといったスタッフ全員が一丸となりチームで勝ち取った結果です。これは紛れもない事実ですが、平井ヘッドコーチもチームだけに依存してはいけないと強く感じていることを次のように話しています。

 

「日本人は組織作りが上手ですし、組織として機能すると強みを発揮します。日本がこれから世界で戦っていくには、チームスポーツに限らず、チームワークや組織の力を生かすことが間違いなく重要になるでしょう。ただし、組織力やチーム力ばかりが強調されると、今度は個の力の向上が疎かになる恐れがあります。

DNAの問題だけで、日本にはマイケル・フェルプスのような突出した選手が出てこないのでしょうか。私には、チームプレーや組織の力を重視するあまり、突出した人間を認めようとしない風潮が日本にはあり、それが傑出したスイマーが出てこない原因の一つのような気がします。

これまでチームや組織で補うという文脈で語られているケースが圧倒的でした。一人では劣っていても、みんなで集まればなんとかなるだろうという発想。それはそれで必要な局面もあるでしょうが、これから日本が世界で戦うためには求められるのは個の力をより伸ばすようなチーム力や組織作りだと思います。

日本人は「チームのために頑張る」という言葉に弱い部分もありますが、チームの犠牲になって個が伸びないようでは競泳のような種目ではオリンピックで金メダルを取ることはできません。そろそろ「オレのためにチームがある」というような個性の強さを認めても良いではないでしょうか。

康介(北島康介選手)や陵介(入江陵介選手)のような天才が存分に活躍できるようなチームを作り、「オレのためにチームがある」と思っている選手に「今日はチームのために頑張りました。」と言わせる組織作りが理想なのかもしれません。」

 

 

◆個人がチームを引っ張り成長する

平井ヘッドコーチの言葉にもあるように、選手自身が代表選手である誇りと強い意志を持ったうえで、さらに自分自身が狙った大会で最高のパフォーマンスをするからこそ本当に強いチームとなります。自分の力を出し切って結果を残す姿がチームに刺激を与え、周りの選手たちはそれに応えていくのです。

 

間違えてはいけないのは、チームが選手個人をサポートしながらも、選手個人がチームを引っ張っていく体制です。これがチームだけ、選手だけだと、チームとしての成長は止まってしまうのではないでしょうか。

 

さて、リオ五輪ではどんなチームで挑むのでしょうか。今回のリオ五輪では平井ヘッドコーチが辞め、新しく梅原孝之ヘッドコーチが就任しました。今度の五輪はどんなチームになっているのか、チームというキーワードで競泳を見ても楽しみが拡がるのではないでしょうか。私としては今の日本代表が持つ『チーム力』が見えてくるのでとても待ち遠しい気持ちです。リオ五輪の競泳代表の活躍を祈っています。

 

 

◆トビウオジャパンから学ぶ個人競技でもチームで勝つ3つの秘訣!

 

今回のポイントになるチームで勝つ3つの秘訣です。

1.選手間、コーチ間で相互補完ができていること

2.突出した個が活きるチーム作りができていること

3.チームが選手個人をサポートしながらも、選手個人がチームを引っ張っていること