「心の病と低血糖症」

◆食事とメンタルは密接に関連している!

前回までは、主に食事と健康に関するテーマを書いてきました。

今回は、食事とメンタル面について書いてみたいと思います。

現代人はストレスが多く、厚生労働省が実施している調査によると、「うつ病」などの気分障害の患者数は1996年に43.3万人だったものが、2008年にはついに100万人を突破。2014年には推定111万人に達したといいます。

いじめ、引きこもり、ADHD(注意欠陥多動性障害)など、子ども達にも多くのストレスがかかっています。

みなさんの周りにもキレやすい、情動が不安定で、根気がなく、常にイライラして、カッとしやすいというお子さんはいないでしょうか?

図1.うつ病・躁うつ病の総患者数(厚生労働省 平成26年「患者調査」統計表9より)

 

◆悪童マイケルの事例

1964年ロンドンで開催された「社会精神医学国際会議」でマッカーネス博士が発表した実例のタイトルが「悪童マイケル」です。

マッカーネス博士は、ある中流家庭の子供でまだ小学生にもなっていないマイケルを長い間診てきました。

マイケルは大変喧嘩好きであり、学校に行っても家庭でも勉強にも遊びにも集中できないし、忍耐強く何かをやり通すということも出来ませんでした。

家でもマイケルは、すぐ玩具を壊すし、兄弟をつねったり、ひっかいたりして喧嘩が絶えませんでした。

いつも落ち着かず、手が震えていました。話をしようとすると吃り、イライラして怒りっぽく、情緒が不安定で自分の爪をよく噛んでいました。

典型的な「悪童」で、しかも夜になるとよく眠れず、しばしばひどくうなされたりしていたのです。

マッカーネス博士はこのマイケルが日常どんなものを食べているかを調べてみたところ、以下のような菓子類ばかりだったのです。

・アイスクリーム、種々のケーキ、種々のチョコレート
・精製シリアル(コーンフレークの類で沢山の砂糖やミルクをかけて食べる)
・グディーズと呼ばれる菓子類、ボンボン、ミルクセーキ
・ミルクチョコレート、白パン、加工食品

 

そこで、マイケルの母親に相談し、以下のことを試みました。

・上記のような菓子類を与えない。

・特に砂糖は食べさせない。

・代わりにたくさんの野菜と黒パンを食べさせる。

・肉類をなるべく控える。

 

このような食事を続けていくと、悪童の兆候は目に見えて消えていき、数週間後には見違えるような「よい子」になってしまいました。

また、試しに博士はマイケルに以前の食事をとらせたところ、数日後には以前の悪童に戻ってしまったというのです。

つまり、

マイケルを悪童たらしめていた新犯人は“食事(砂糖のとり過ぎ)”だった

のです!

 

砂糖は糖代謝を狂わせ、インシュリンの過剰分泌を起こし、『低血糖症』という新しい病気を起こすため、発作的精神異常をきたした凶悪犯罪者の多くは、『低血糖症』であると言われているのです。

 

◆低血糖症のメカニズム

砂糖のとり過ぎなのに、“低血糖”??と混乱された方もいるかもしれませんね。そのメカニズムについて説明します。

まず血糖とは、“血液中のブドウ糖”のことを言い、血液中に含まれるブドウ糖の量が「血糖値」です。

この値が正常範囲に対して高過ぎると、糖尿病に代表される「高血糖症」であり、反対に低過ぎると『低血糖症』ということになります。

米(多糖類)などの通常食の場合、血糖値は緩やかに上昇し、脾臓から分泌されるインスリンによって細胞内に吸収できるようになり徐々に低下して正常範囲で推移します。

 

では、砂糖を多量に摂取すると何が起こるのでしょうか?

特に精製された砂糖や単糖類を多量に摂取した場合、血糖値が急速に上がります。

パニックに陥った脾臓は過剰反応して多量のインスリンを血液中に放出。

その結果、血糖値が大きく低下し、低血糖状態を引き起こします。

 

多量のブドウ糖の処理を繰り返し繰り返し強いられると、脾臓は過敏になり、ついには『低血糖症』になってしまうのです。

 

◆低血糖症の診断方法と症状

図2 糖負荷試験による低血糖症と血糖曲線

図2は低血糖症の診断方法である糖負荷試験による血糖曲線です。

空腹時に血糖値を測ったあと、ブドウ糖溶液を飲みます。

その後の血糖値の推移を4、5時間測定したものです。

正常な血糖曲線は、ブドウ糖の摂取に対して血糖値が緩やかに上昇し、摂取前の血糖値に戻っていきます。

 

一方、『低血糖症』の場合は、ブドウ糖の摂取に対して、血糖値が上昇したあと、

インスリンの過剰分泌によって血糖値が下がり続け、“摂取前よりも低下”してしまいます。

 

ここがポイントで“糖を摂取したのに摂取前よりも血糖値が低下してしまうことが問題”です。

しかも低血糖症かどうかを確認するには時間がかかるのです。

通常、糖尿病の検査では、血糖値が下がらないことを確認すればよいので2時間ほどで済みますが、低血糖症の場合は4、5時間かけて検査しなければならないため見過ごされる可能性があるといいます。

脳は体全体の血糖の20~30%を消費するため、低血糖状態では脳を守るため「強い眠気」に襲われます。

もしくは、下がり過ぎた血糖値を上げる為にホルモンを分泌します。

血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありませんが、血糖値を上げるホルモンは7つもあり、その中でもアドレナリンとノルアドレナリンは、精神的な強い症状を引き起こすのが特徴です。

アドレナリンは「攻撃ホルモン」と呼ばれ、血糖値を上げるためだけでなく、強いストレスにさらされたときにも副腎髄質から大量に分泌されます。

 

低血糖時では、生命維持に関わる『爬虫類の脳(第一の脳)』と呼ばれる脳幹に優先的にブドウ糖が分配され、

高度な機能を司る『人の脳(第三の脳)』と呼ばれる大脳皮質には届かないため、人間的な理性のある判断はできなくなります。
その一方で、

血糖値を上げるために分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンが、情動を司る『馬の脳(第二の脳)』と呼ばれる大脳辺縁系を刺激し動物的な感情的興奮を引き起こすため、イライラして怒りっぽく、情緒が不安定な“悪童”状態を引き起こす

わけです。

 

悪いことに糖を摂取しても血糖値がすぐ下がるので、甘いものが繰り返し食べたくなるのも低血糖症の特徴です。

また、ADHDを引き起こすのもアドレナリンであるため、ADHD児が落ち着きがない、攻撃的であるといった症状を示すのは、アドレナリンが放出される時とみれば、合点がいくのではないでしょうか。

さらに、アルツハイマー病と低血糖症の関係性も示唆されているそうです。

 

◆低血糖症は改善できる

このように子どもから大人、老人に至るまで影響を及ぼす低血糖症。

逆に考えれば、

砂糖の過剰摂取が原因である以上、食事を改善することで低血糖症は改善する可能性がある

ということです。

低血糖の原因の第一に過剰な砂糖摂取。

第二は、糖質不足か、タンパク質やビタミンミネラルなどの栄養不足。

 

白砂糖など精製された砂糖がたくさん使われた菓子類、菓子パン、チョコレート、アイスクリームなどを主食とせず、極力控えましょう。

果糖ブドウ糖液糖がたっぷり含まれた清涼飲料水にも注意が必要です。

ジュースばかりでなく、スポーツドリンクにもよく含まれているので健康に良さそう!なんて思い込んで飲み過ぎないようにしましょう。

 

いかがだったでしょうか?

食事とメンタルは密接に関係しており、推奨する食事もこれまでお伝えしてきたように

『お米を主食とした和食を中心に、肉食を控えて生食を取り入れる』

という結論に変わりはありません。

 

もう少し、詳しく知りたい方は、『心の病と低血糖症(大沢博著)』をお読みください。

 

もうすぐバレンタインの季節ですが、甘くておいしいチョコレートを食べ過ぎないようにしましょうね♪

 

◆まとめ

・食事とメンタルは密接に関係しており、低血糖症が心の病の原因になっている。

・低血糖症は、砂糖のとり過ぎによって引き起こされる。

・メンタルや心の病は食事によって改善できる。