「ベルツの日記」とマクロビオティック

◆日本人の超人的な体力の理由を明らかにしたドイツ人医師ベルツ

明治時代に日本に招かれたドイツ帝国の医師であるベルツが日本人の強靭な体力の原因は何かを調査した記録が昭和6年に出版された「ベルツの日記」の中に残されています。

ベルツは知人から日本に滞在している間に日光東照宮を見た方がいいとすすめられ、馬で東京から日光まで14時間かけて行きました。

その時、途中で馬を6回乗り替えました。

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2回目に行った時は人力車に乗って行きましたが、その車夫は1人で14時間半で行ってしまいました。

馬よりすごいこの体力は一体どこから来るのか、彼は実験を始めました。 人力車夫を2人雇って3週間彼らの食生活を調査したのです。

肉類などの高タンパク・高脂質のいわゆる彼らの理想とする食事を摂らせながら体重80キロの人を乗せて、毎日40kmを走らせたところ、3日目で疲労が激しくなり、元の食事である米・大麦・イモ類・栗・百合根など(高炭水化物・低タンパク・低脂質)に戻して欲しいという事で普段通りの食事に戻すとまた元気に走れるようになるという結果がでました。

ベルツはドイツの栄養学が日本人にはまったくあてはまらず、日本人には日本食が良いという事を確信しました。

それにもかかわらず、明治政府の指導者たちはベルツの「日本人には日本食」という研究結果よりも、フォイトの「体を大きくする栄養学」の方を選んでしまったのです。

時は流れ、戦後に食の欧米化がさらに進んだことはご存知のとおりです。

 

このような歴史を踏まえ、今回から2回に分けて日本に焦点を当てて食について考えていきたいと思います。

 

◆日本の伝統的な食事を体系化したマクロビオティック

明治以降、肉類、卵、乳製品を最良と考える食文化が広まりましたが、その中にも穀物や野菜、海藻などを中心とする日本の伝統食をベースとして体系化された食事法があります。

『マクロビオティック』という桜沢如一氏が提唱した食事法です。

マクロビオティックは、桜沢如一氏(1893~1966)が、石塚左玄の「食物養生法」の考え方と、東洋思想のベースとなる中国の「易」の陰陽を組み合わせた、「玄米菜食」という自然に則した食事法を提唱したことからはじまりました。

その後1950年以降、久司道夫氏によってマクロビオティックが体系化され、欧米を中心に広まりました。近年は、健康ブームに乗って日本に逆輸入され、マクロビレストランとして街中でも見かけるようになりました。

 

◆マクロビオティックの基本理念は3つ

一物全体(自然の恵を残さず丸ごといただくこと)

ひとつのものを丸ごと食べる、という意味です。食材そのものは、丸ごとでバランスがとれており、穀物なら精白していない玄米、野菜なら皮や葉にも栄養があり、全てを摂ることでからだのバランスがとれるという考え方です。

 

身土不二(暮らす土地の旬のものを食べること)

人間も植物も生まれた環境と一体という意味です。例えば、熱帯地域でとれるフルーツには体内の熱を下げる働き、寒い地域でとれる野菜には体内を温める働きがあり、四季のある日本では、季節ごとの旬の食材をとることで、からだのバランスがとれるという考え方です。

 

陰陽調和(食材、調理法を陰陽に分け、そのバランスをとること)

すべてのものに「陰」と「陽」がある、という考え方があります。陰性の食材とは上に向かってのび、からだを冷やす作用があり、陽性の食材とは地中に向かってのび、からだを温める作用があると考えられています。旬の食材を例にすると、夏のキュウリ(陰性)は、ほてったからだから熱をとり、冬のゴボウ(陽性)は、冷えたからだを温め、わたしたちのからだのバランスをとる手助けをしてくれます。マクロビオティックではこの陰性と陽性のバランスがとれた状態(中庸)を大切としています。

 

◆マクロビオティックとマクガバンレポートの意外な共通点

以上のような理論を中心として、マクロビオティックでは玄米や雑穀、全粒粉の小麦製品を主食とし、野菜、穀物、豆類などの農産物、海草類を副菜とし肉類や卵、乳製品は用いません

ところで、このような話ってどこかで耳にしたような食事ですよね?

そう、前回までお伝えしたマクガバンレポートが提唱する『プラントベースでホールフードの食事』にそっくりです。

実は、桜沢如一氏は1929年に渡仏、1960年代に渡米して、弟子の久司道夫氏らとともにマクロビオティックを広めました。1970年代に入って欧米の政府や栄養学会にも受け入れられるようになったとされています。

このように全世界に影響を及ぼしたマクロビオティックですが、完全に科学的証明がなされた理論ではないため、最新の栄養学の観点から問題点も指摘されています。

次回は、マクロビオティックの功罪という観点でより深く考えていきたいと思います。