ベジタリアンとヴィーガン ~ガン発生のメカニズム~

前回は、アメリカでガン、心筋梗塞、脳卒中などの【食原病】に歯止めをかけるきっかけになったマクガバンレポートを中心にお伝えしました。今回は、欧米のセレブやエリート層が実践している食事についてお伝えしていきます。

 

さて、マクガバンレポートの薦める食事は、『プラントベースでホールフードの食事』ということでした。

これを実践する人のことを一般的な言葉でいうと、ベジタリアン(菜食主義者)、つまり肉や魚を食べない人となりますが、最近日本でも耳にする機会が多くなった「ヴィーガン」についてはご存知でしょうか?

ヴィーガンとは「完全菜食主義者」という意味で「野菜中心の食事ならベジタリアンと一緒?」と混同されがちですが、実はヴィーガンとベジタリアンは似て非なるものなんです。

そんなヴィーガンを実践する欧米のセレブやエリートが増えています。
有名人を何人か挙げてみましょう。

 

一人目は、ハリウッド女優のナタリー・ポートマン

2010年の映画『ブラック・スワン』でオスカー主演女優賞を受賞したナタリー・ポートマンはイスラエル出身のハリウッド女優。なんと8歳の時からベジタリアンを貫いているというから、その美しさは芯からにじみ出ています。

小説家、ジョナサン・サフラン・フォア著の『EATING ANIMALS』を2009年に読んでからは厳格なヴィーガンになったそうです。

 

二人目は、R&Bシンガーソングライターのニーヨ

ニーヨは、2013年10月1日にヴィーガンダイエットを採用するとTwitterでアナウンスしました。

最初これはニーヨにとってダイエットという目的を伴ったベジタリアンライフスタイルの”戒律テスト”に過ぎなかったが、翌年1月1日には、動物を食べることに関する本を読んだ結果、ダイエット以上のものを見出したためにヴィーガンになったそうです。

 

三人目は、オリンピック金メダリストのカール・ルイス

10のオリンピックメダル(うち9つが金メダル)と10の世界選手権メダル(うち8つが金メダル)を獲得した元陸上競技選手。

カール・ルイスは、『Very Vegetarian』(ジャネキン・ベネット著)というベジタリアン料理の本の紹介文を書いています。

自身もヴィーガン食に切り替えた最初の年が競技人生で一番いい記録が出た年だと言っています。

 

最後は、ボディビルダーのジム・モリス

ジム・モリスは、30年以上の長きにわたりコンテストで勝ち続けている素晴らしいボディビルダー。

1972年のMr. USA を始め、60歳を過ぎてからは、全米が注目するプロ・ボディビルの世界最高の祭典「Mr.Olimpia」の60歳以上の部門で優勝している。

ジム・モリスは50歳の時にベジタリアンとなり、ヴィーガンへと進化していったそうです。

ボディビルの世界では、1日6回以上の食事、動物性タンパク質は必須であると言われているため、ヴィーガンなどもってのほか、不可能と言われていた中で常識を覆した偉大な人物です。

ジム・モリスによって筋肉を作ることに動物性タンパク質を必要としないことが証明されたと言えるかもしれませんね。

 

このように欧米では、有名人をはじめ、セレブやエリート層を中心として一般人がプラントベースの食事を実践しているのです。しかし、なぜ肉食をせず穀物野菜果物を中心とした食事が良いのでしょうか?

一例を挙げてみましょう。例えば、栄養学の権威であるT・コリン・キャンベルというコーネル大学名誉教授の著書『葬られた「第二のマクガバン報告」(訳:松田麻実子)』の中で、ガン発生の真犯人は【動物性タンパク質】だったと述べています。

一般的に発ガン性物質がガンという病気を引き起こしていると思われていますが、発ガン性物質だけではガンという病気には至らないというのです。

ガンは形成期、促進期、進行期の3つの段階を経て進行していきます。これはちょうど植物の成長過程に似ています。

 

形成期:きっかけは発ガン性物質

種まきの時期。発ガン物質が細胞に侵入すると酵素によって代謝され、反応性の高い危険な物質に変化。その物質が細胞のDNAを攻撃。損傷したDNAはほとんど修復されるが、時に損傷したDNAが修復されるより先に細胞が増殖して永久にダメージを受けたガン細胞が生まれる。ただし、呼吸によって生まれる活性酸素によっても一定程度生まれるため、人体にとってガン細胞自体は特別なものではなく、通常はアポトーシスといって人体の正常な免疫システムによって細胞死してしまいます。

 

促進期:成長は食べ物次第

発芽から苗の時期。促進期は、ガン細胞群が増殖し、目に見える腫瘍が形成される。人間の場合だと何年もかけて成長する。促進期は、初期のガンが成長に最適な条件が与えられるかによって促進するか停止するかが決まる。食事が重要となるのはこの時期で、食事因子には促進物質と抗促進物質があり、促進物質はガン増殖のための食べ物で、抗促進物質はガンの増殖を遅らせるまたは停止させる。

 

進行期:致命的なダメージの始まり

植物が大きく成長し、さらに自ら種をまいて増殖していく時期。進行期は、成長したガン細胞群が体に決定的なダメージを与えるまでガンの増殖が進行した状態。最初にあったところから移動して別の部位に転移する。

 

ここで重要なポイントは、促進期にあります。キャンベル教授の研究結果を一部ご紹介しましょう。

アフラトキシンという強力な発ガン性物質を与えたマウスに動物性タンパク質の割合を変えた食事を与えることによって発生するガン病巣の研究です。

名称未設定3

 

『葬られた「第二のマクガバン報告」』の図9によると、発ガン性物質を一定量与えたマウスに対し、動物性タンパク質が5%の場合に対して20%の場合で病巣反応に大きな差が見られました。

さらに、図10では、多くの発ガン性物質×低タンパク質食に対して少ない発ガン性物質×高タンパク質食を比較していて、発ガン性物質が少ないにもかかわらず高タンパク食の病巣反応に大きな差が見られたのです。

これはつまり、形成期に作用する発ガン物質の量よりも促進期に摂取される食物中のタンパク質の方が「病巣の成長」に対してはるかに多くの影響を与えているということなのです。

 

名称未設定4

では、タンパク質の種類についてはどうでしょうか?

先の結果は動物性タンパク質の量に由来するものでした。

図13では、動物性タンパク質【カゼイン】の代わりに植物性タンパク質を与えた結果が掲載されています。これによると動物性タンパク質【カゼイン】と同割合の植物性タンパク質を与えても病巣反応は促進されなかったという事実があります。

小麦タンパクであるグルテン以外の大豆タンパク食でも同様の結果が得られたそうです。これはつまり、低タンパク食さらには植物性タンパク食であれば多く摂取しても強力な発ガン物質であるアフラトキシンのガン誘発効果を抑えることができるということなのです。

いかがでしょうか?

欧米のセレブやエリートが肉食をやめ、穀物野菜果物を中心としたベジタリアンやヴィーガンになろうと考えるひとつの科学的な理由がここにあります。

ちなみに先ほど出てきた動物性タンパク質【カゼイン】は牛乳のタンパク質の約87%を構成している物質です。牛乳のみを悪者扱いするつもりはありませんが、長年の研究によると

 

・動物性食品からの栄養は「腫瘍の成長を促進」させる

・植物性食品は「腫瘍の成長を抑制」させる

 

ということが言われているのです。

 

今回は、植物性食品の有用性についてお伝えすることができませんでしたが、穀物野菜果物には、3大栄養素の炭水化物、タンパク質、脂質に加えてビタミン、ミネラル、食物繊維、ファイトケミカルスといった身体に良い成分が多く含まれています。これらについてはまたの機会に譲りたいと思います。

また、今回ご紹介した『葬られた「第二のマクガバン報告」(訳:松田麻実子)』は上中下巻と3冊出ており、読み応えのあるボリュームとなっています。

ガン、心臓病、脳疾患、糖尿病、骨粗しょう症など多岐にわたる病気が食と関わりがあることが示されています。

そんなに読書ができないという方は、『フォークス・オーバー・ナイブズ』という映画がDVDとして日本語字幕版で出ていますのでこちらも良いかもしれません。

 

最後にベジタリアンとヴィーガンの違いについて少しだけ触れておきましょう。

完全菜食主義者を意味するVegan(ヴィーガン)という言葉が生まれたのは1944年のイギリス。

もともとは「酪農製品(卵・牛乳・チーズなどの乳製品)を食べないベジタリアン」を指す言葉として、一般的なベジタリアンと区別するために使われるようになりました。

徹底した菜食主義を貫くヴィーガンの思想は、一言でいうと「人間は動物を搾取することなく生きるべきだ」という考え方です。

そのため、肉や魚はもちろん、卵、チーズ、バター類、はちみつ、ゼラチンなども一切口にしません。

なぜなら卵や乳製品は、それを生み出す鶏や牛を苦しめたり、早すぎる死をもたらしたりするものだから。

そう、ヴィーガンという生き方の根底にあるのは動物愛護の精神であり、ここが健康志向から生まれたベジタリアンとの大きな違いなのです。

ベジタリアンやヴィーガンは、本来、日本古来の精進料理を慎ましく食す日本人の精神性に非常に似通ったものですが、欧米諸国に比べ日本は圧倒的にベジタリアン、ヴィーガン後進国であります。

最近では日本国内にも完全菜食をうたったヴィーガン・レストランが登場し、見た目にも華やかで、体に優しいメニューが評判を呼んでいます。

普段の食事でも、肉の代わりに大豆や豆腐、牛乳の代わりに豆乳やココナッツミルクを使えば、お手軽にヴィーガン食を作ることができますので、無理のない範囲でライフスタイルに取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

★まとめ

・欧米のセレブやエリート層にはプラントベースでホールフードの食事を実践するベジタリアンやヴィーガンが増えている。

・ガンという病気の真犯人は、動物性タンパク質だった。

・植物性タンパク質には、動物性タンパク質と違ってガン促進作用はない。